軽井沢は文化と芸術の街
様々な活動をしている芸術家、文化人、茶道など
直接お会いしてその素晴らしさをお伝えします。
第一回 インタビュー 2021.7 松尾たいこさん
広島県呉市生まれ。
約10年間の自動車メーカー勤務を経て32歳で上京。
セツ・モードセミナーに入学、1998年よりイラストレーターに転身。
大手企業の広告などにも多く作品を提供、手がけた本の表紙装画は300冊を超える。
角田光代や江國香織との共著やエッセイも出版。
イラストエッセイ「出雲IZUMOで幸せ結び」(小学館)「古事記ゆる神様100図鑑」(講談社)を発表するなど、神社や古事記にまつわる仕事も多い。
それらの経験を通じ、火・風・水・土など神羅万象に神が宿るという古代日本の概念に共感し作品での表現を追求中。
現在、東京・軽井沢・福井の三ヶ所を拠点に活動している。
(福井での主な活動はこちら)
夫はジャーナリスト佐々木俊尚。
「ブータン しあわせに生きるためのヒント」展(上野の森美術館)のアートディレクションを担当。
NHK「トップランナー」「日曜美術館」などに出演。
インスタグラム @taikomatsuo
<インタビューの前にお知らせ>
3年半ぶりの個展日程が決まりました。 9/18(土)〜26(日) 場所は、東京•代官山です。
テーマは「常若 TOKOWAKA」 「自然も生き物も、永遠はないけれど、形を変えて未来へとつながっていく。
だからこそ、今が愛おしいし、その瞬間を切り取りたい」 「古のものの中に、新たなものを発見し、それを未来に橋渡ししたい」 30点ほどの作品を展示する予定で、いま鋭意制作中。
ぜひ観に来てくださいね。
“人とくらべないと決めたとたん楽になった”
インタビュー松尾たいこさん
軽井沢にて2021.7
軽井沢へのきっかけ
T・元々、軽井沢に興味があったわけじゃなく2011年東日本大震災がきっかけ。
その時、目黒区に暮らしていたんだけど、大型犬もいたし、夫も私もフリーランスで自宅と仕事場が一緒。
もし東京に災害などあったときに怖いなと思って。
それに大型犬は、災害時には避難所に入れないんじゃないか・・・というのも不安になって私はすごく心が弱ってしまって。
「じゃあ拠点を増やそう」ということで夫が色んなとこを探してくれて、はじめ仙台はどうかということになったけど、大型犬の移動が大変だなぁと。
さらに探したら軽井沢が東京から車でも2時間半くらいで。
「車がなくても東京でなにかあった時には、一日かけてでもなんとか行ける」という場所があることの安心感が私たちにはすごく大切だと思えたので、軽井沢に家を借りることにしたの。
R・大型犬は何犬?
T・スタンダードプードル
R・性格がきついの?
T・違う違う違う。すごく優しい。頭よくて。
R・本当?
T・え!?なんで性格きついって?
R・私の知ってる人で、大型のプードルっていうの飼ってて。まぁーきついきつい。それは違うのね。
T・えー!我が家のスタンダードプードルは、怒ったことがない。ものすごく優しいし、頭がいいよ。
R・で、軽井沢に決めたんだ
T・そう、震災が3月だったからとにかく早く見つけたくて、5月に申し込んだけどリゾートシーズン前だったから物件の数が少なくて、本当に少ない物件の中から決めたの。
だから住んでみたけどあまり気に入らなかったから、2年で別の物件を借りて、今そこにずっと住んでる。
R・住み心地どうでした。
T・はじめはすごく怖かった。だって夜になると真っ暗で周りに灯りがないし、別荘地だから家はたくさんあるけど住んでる人がすごく少ないの。
ただ、今借りてる家は週末ごとに斜め前の家がご家族で来られているので安心感はあるんだけど。
でもね、誰もいない事もあっという間に慣れて、その静寂が自分の思考を邪魔しないというのが気持ちいいの。
軽井沢に気に入ってるところ
T・そのあと、福井にも家を借りて、今では東京、福井、軽井沢と三拠点生活になったんだけど、軽井沢は基本的に夫も私も長いスパンの仕事をするために行く場所。
うちの夫はジャーナリストで本の執筆とか長くゆっくりと考えたい仕事をするにはいい場所だと思っていて。
東京にいると打合せがあったり、出掛けなきゃいけない用事とかあってバタバタすることが多いけど、軽井沢は基本的にそんなに知り合いがいないから食事をする時間以外はお互い別の部屋で、ずっと仕事をしてる。
R・素敵ね、そういうスタイルも。
食事はあまり外には食べにいかないの?
T・外食は例えば1週間いるとしたら、ランチに1回、夜1回行けば多いくらい。
基本的には家で食べてる。軽井沢は結構食材が豊富だし。肉やパンとか野菜とか、いくらでも美味しい新鮮なものが手に入るし、結構レベルの高いものが多いから、料理担当の夫も張り切って作ってる。
R・軽井沢で不便だったことある?
T・不便なことは無いかな。例えば東京にいるとゴミを出す日が決まっているけど、軽井沢はゴミステーションがあるからいつでもそこに持っていけばゴミは捨てられる。
ただ、軽井沢は車が無いと行動範囲があまりに狭くなるから、私もペーパードライバーを返上して車の運転の練習して車を買った。
車が無いと行動範囲が10分の1か100分の1に狭まるのは感じた。
軽井沢の好きなところ
T・作られていない自然がある。もちろん植物に詳しくないけど知らない植物がいっぱい生えていてプリミティブな感じがして。
元々神様とか信じるほうじゃなかったけど、この何年か伊勢神宮や出雲大社を周って本にしたりとか、古事記を勉強して本にしたりとかしている中で自然に古来日本の考え方である神羅万象、神が宿るとか、八百万の神とか、そういうことが、もしかしたらあるかもしれないと思えるようになって。
軽井沢の大自然の中にいると、その気持ちは強くなった。
さらに天気がよくて緑がキラキラしているとか、陽ざしがあるとか木漏れ日があるとか、それが美しいと思えるようになって、そこに感謝に気持ちがすごく自分の中に湧き出てきて、そういう感覚を呼びおこしてくれた軽井沢は凄いなと思って。
軽井沢は別荘地なんだけど、浅間山も美しいし人工的じゃない自然が残っている、そこがすごくいいなと思って。
自信をもてるようになった理由
T・人からの言葉。いろんなところで話してるけど代表的なのは、うちの夫。
私は本当に親から褒められたことがなかったから、例えば自分でテストで良い点とったなと思っても90点だとあまり褒められない。だから自分の出来ないことを数える生き方をずっとしてきた。
だけど、夫と暮らすようになったら、彼が「あんなに素晴らしい絵が描けるんだったら他の事出来なくてもいいじゃないか」って。
料理も出来ない、掃除も下手で体も弱いからあれもこれも出来ないという話をしたら、「それは別に料理や掃除の出来る人にやってもらえばいいじゃないか」と言ってくれて。
出来ないことを数えるのではなく自分の出来ることを伸ばせばいいじゃない、ということを初めて教えてくれたのが夫だった。
だからやっぱり夫にはすごく感謝している。一番強い、力強い言葉だった。
R・素晴らしい。人とくらべなくなった?
T・そう、夫の言葉がきっかけだけど、なかなかすぐには変われないじゃない。0か100か、だけどだんだん年月が経って自分でも体感できて。
例えば私が180㎝の長身の人を羨ましがっても180㎝にはなれない。そういう事に憧れたり嫉妬することは全く意味がないなと思って。
もちろん向上心はあるけど、はじめっから出来ない部分を羨んでも仕方ないし。
すごい美人に憧れても羨んでも、その美人には自分はなれないわけだから、そこでの戦いは全く意味がないなと思ったの。
R・で、そこから吹っ切れて自信がもてるようになったの?
T・うん。まだ100%ではないけど自分が自信を無くしそうになった時には、そのことを思い出すようにしてる。彼女の持ってないものを私は持っていることに。
結局、私が彼女と同じことが出来ても彼女にはなれないわけだから、そしたらやっぱりオリジナルの方が素晴らしいわけ。
それよりか、私も自分の中のオリジナルを作った方がいいなと思ったの。
そういう繰り返しがあって、ちょっとづつ人と比較するんじゃなく、私がこうなりたいという自分の中の目標を目指す方が健全だし楽しいと気づいた感じ。
運が味方してくれたと思ったことは?
T・もちろん私は運はいいと思う。私が悩んでいるときは誰かが手助けをしてくれたり色々アドバイスをくれる。
だけど運というのも自分が掴んでいるというか、例えば私はいつも素直に「これが出来ない」「こういうことが知りたい」ということを周りに素直にいうのね。思っていることは、口から出さないと誰も分からないでしょ。
でもこういうことを知りたいんだと口に出すと、周りの人が「これ僕知ってるよ」とか教えてくれるわけ。
そこで「わっ!知ってる人がいるんだ。ラッキー」、私って運がいいなって思う。
だけど自分からアクション起こさないと運もついてこない。
「僕は知ってるよ」と教えてくれたときに、それで私は素直になんか「え、じゃあ、それ知りたいです」と言えるの。知りたいと思うし教えてもらったことを試す。
100個試して100%自分の事になったか?といえば違うけど、その内の半分でも自分の役に立つことがあれば次に繋がるでしょ。試さなきゃ為になったかわからない。
試したことはゼロやマイナスには全然なってないし、試してみたことが面白かったら教えてくれた人に「あれやってみたんですけど面白かったです」と言える。
そうするとその人も喜んでくれて、更にいろいろ教えてくれるわけ。
だから、ラッキーってとこから、動かなかったらやっぱりゼロだと思う。運のいい人というのは基本的には、すぐに反応して動くし努力している人だと思う。
R・運と努力は一対ね。
T・一対だと思う。
情熱をかけていること、これからやりたいこと
T・やりたいことというか、私はもっともっと知らない自分をみてみたい。だから、絵も上達したいと思うけど、どういう風になるのか最終形というのは自分でも分からないの。だからゴールはないかな。
明日はもっと面白い自分をみたい、面白い作品を作れる自分がみたい、面白い考え方でいられる自分をみたい。それを毎日繰り返してるだけ。
最後に
T・とりあえず、人とくらべないことって気持ちいい。 ただ、運は待っていても来るものではないし、自分の人生を人のせいにしないことを決めるとすごく自由になれる。 自由と責任はセットだと思っています。
(T) 松尾たいこさん
(R) 谷口令
谷口令より
「人とくらべないと決めたとたんに楽になった!」
イラストレーターとして大活躍の松尾たいこさんの素敵な言葉が心に残ります。